任意売却を決断するべき状況とは?
2021.09.25
分譲マンションなど、ご自身の居住用の住宅を購入する際には、返済期間が長期に渡る住宅ローンを利用するのが一般的。
ただ、完済する前に収入が大きく減少するなどの理由によって、毎月の返済が難しくなってしまうことがない訳ではありません。
世の中がずっと平穏で、トラブルなく過ごせることを心から願っていますが、コロナウィルスの蔓延や大災害のように、突発的で不可抗力な事態に、誰もが不意に巻き込まれる可能性があります。
いまニュースに流れている経済的な困窮に直面している方々の話は、決して他人事ではありません。
住宅ローンを約束通りに返済することが困難になり、滞納が発生する状態になってしまった時には、ローンの目的である自宅不動産を売却し、その売却代金をもって返済していただくのが基本です。
ただ、売却代金よりも残債の方が多い場合には、それだけでは完済とならないため、売却すれば即解決と、単純には言えません。
そのような時に適用できる方法として「任意売却」という制度があります。
もちろん、すべての方が、このような制度とは一生ご縁がないことが望ましいのですが、不幸にも厳しい状況に陥ってしまっている方や、今後の返済に懸念を感じている方は、できるだけ早い段階で、銀行や不動産会社に相談されることをお勧めいたします。
ご事情にもよるかもしれませんが、返済が困難になってしまうこと自体は恥ずべきことではなく、銀行も含めて、貴方を助けたいと思っているとご理解ください。
◆◆任意売却という制度の概要◆◆
この章のテーマである「任意売却」という制度を詳しく知っているという一般の方は、かなり稀だと思います。
前述のように、住宅ローンの返済が滞ってしまった時には、自宅不動産を売却して残債を一括返済するのが基本ですが、通常の売却と任意売却では、何がどう違うのでしょうか?
ごく簡単に言うと、次のように使い分けます。
売却代金 > 住宅ローンの残債等 ⇒ 通常の売却
売却代金 < 住宅ローンの残債等 ⇒ 任意売却
任意売却とは、住宅ローンの目的である自宅不動産を売却しても、残債の完済ができない状態の時に、売却前に銀行と協議を行って、足らない金額の返済を免除してもらう仕組みです。
住宅ローンの滞納が生じている場合、預貯金や換金性の高い財産がほとんどないうえ、管理費や固定資産税などにも滞納があるケースが多く見られます。
このような状況では、自宅不動産を売却しても足りない分を、売却代金以外の財産から充当して返済することは非現実的。
一方で、銀行が住宅ローンを融資した時に自宅不動産に設定(登記)した「抵当権」は、通常では、完済しない限り解除することができません。
この「抵当権」を解除することは、不動産を売却する際の必須条件となります。(売主の抵当権が付いたままの状態で不動産を購入する方はいません。)
従って、このような局面を打開して、売主様の住宅ローン債務をゼロとするためには、銀行に特別なご協力をいただくことが必要です。
もちろん、銀行としても損失(貸したお金の一部が返ってこない)となるので、簡単に了解してもらえる訳ではありません。
売主様の経済的な状況などに加えて、不動産会社から対象物件の精緻な査定価格や市況を説明して、理解を求めることになります。
◆◆任意売却の意味とは?◆◆
ところで、「任意売却」というのは不思議な感じがする用語です。
誰の「任意」で「売却」すると言うのでしょうか?
実はこの言葉は、銀行が抵当権を法律に基づいて行使し、住宅ローンを回収する「強制執行」と対になっています。
ローンを借りた方が約束通りの返済をしない場合、銀行は催告を経たうえでいつでも抵当権を実行できますが、自ら立ち退きや処分に手を下すことができる訳ではなく、裁判所に訴え出て、公的な手段によって執行されることになります。
強制執行が認められると、売主様(債務者)との話し合いの余地はなくなり、法律に則って粛々と競売等の手続きが進められるのですが、銀行としても、本心ではそこまでやりたくないのが本音でしょう。
その理由は、まず権利の行使とは言え、手続きに手間と時間が掛かること。
そして、残債の額にもよりますが、競売では売却価格が市場価格より大幅に低くなり、しばしば残債の全額を回収できないことです。
一方で、このような強制執行を行う前の段階で、売主様(債務者)と銀行が話し合って、市場で自宅不動産を計画的に売却して住宅ローンを精算する方法が「任意売却」となります。
この両者を比べると、売主様にとって圧倒的にメリットがあるのは、任意売却の方です。
強制執行では、立ち退き命令を含めて「身ぐるみ剝がされる」感が非常に強く、その後の生活の再建等にも何ら配慮されませんが、任意売却なら冷静に協議して、引越しや転居先確保に要する費用の控除等を認めてもらえる可能性があります。
任意売却では、表向きは通常の売却と同じなので、ご近所や親族の噂になったり、個人情報が漏れる心配もありません。
◆◆任意売却を検討すべき状態とは?◆◆
ローンの返済が苦しくなったからと言って、すぐに自宅不動産を売却しなければならない訳ではありませんが、引き続き保有していたいのなら、先々のローンの返済について、確たる見通しが必要です。
楽観的なアバウトな話ではダメで、具体的で確実な挽回策があると言えるのか、現実的に判断しなければなりません。
同時に、住宅ローンを貸している銀行は、貴方を助けるために、状況を知りたがっています。
滞納が生じると、最初は穏やかな文面の督促状が届きますので、この段階で窓口に出向いて状況を説明すると、銀行側も安心します。
また、ご事情を踏まえて、金利や返済期間を見直すことで、毎月の返済額を引き下げる提案もしてくれると思います。
最悪なのは、滞納が溜まっているにも関わらず、督促を無視し続けること。
実は多くの方は、何とか返済したいと思っているので、積極的に無視しているつもりはないのですが、結果的に返済できないと、状況が分からない銀行側の対応はどんどん厳しくなります。
当然、督促状も辛辣な表現に変わっていくのは、避けられません。
銀行としては会社のロスをできるだけ低く抑えることと、住宅ローンを貸している売主様(債務者)のサポートをすることは、ほぼ表裏一体と言えます。
ですから、前述のように、本当は抵当権の実行などしたくないので、売主様が事情説明や協議のテーブルに座ってくれることを望んでいます。
任意売却の適用の検討についても、銀行側が強制執行することを意思決定してから慌てて持ち出すようでは、完全に手遅れ。
返済が厳しくなってしまったら、できるだけ早めに手を打つことが、結果的に貴方を助けることにつながります。