豪華な共用施設が魅力の分譲マンションで気を付けたいこと
2021.10.06
このコラムの筆者は、分譲マンションの売買等を行う宅地建物取引士であると同時に、国家資格であるマンション管理士も有しております。
1962年に区分所有法(マンション法)が公布されて以来、それぞれの時代に様々タイプの分譲マンションが開発されてきましたが、2000年代に入ってからの主流の1つは、豪華で充実した共用施設を特色にしたマンションです。
昨今では、コロナ予防のためテレワークが推奨され、共用施設で仕事ができることをPRするようなマンションも現れていますが、ゲストルームやパーティールーム・ロビー等を備えた物件は珍しくなくなってきました。
限られた自宅の居室以外に多目的に自由に使える場所があることは魅力的に見えますが、心配することは何もないと言えるでしょうか?
このコラムでは、このような共用施設について留意すべきことを見ていきましょう。
◆◆共用施設の利用ルールを定めているか?◆◆
筆者自身も、共用施設の充実ぶりを特徴として売り出されたマンションに、かつて居住していたことがあります。
当時はまだこのようなタイプのマンションは珍しく、完成した当時はちょっとした話題になったものです。
ただ、入居した後にすぐ気付いたのは、多様な共用施設を居住者みんなで上手く使うには、分譲時にしっかりと利用ルールを定めておく必要があるということです。
昨今の分譲マンションでは、黎明期の物件で起きた問題の反省が活かされていると思いますが、開発事業者が最低限度のルールしか定めずに、後は管理組合(マンションの区分所有者全員で構成される組織)で自由に決めてくださいというスタンスだと、居住者の間の対立の火種になりかねません。
共用施設が充実したマンションの購入を検討するなら、次のようなことがあらかじめ定められているか、規約等を確認してみましょう。
〇 利用料を取るのか無料なのか。取るならいくらなのか。
〇 予約が必要な施設の場合は使いやすくて現実的な予約方法が導入されているか。
〇 利用可能時間(音が出るような施設の夜間の利用)を設けているか。
〇 鍵の管理(貸出し)を誰がしているのか。
〇 特定の住戸の方が独占しないように利用頻度に制限を設けているか。
〇 有料の教室の開催などの営利目的での利用を認めるか。
〇 子供(未成年)だけでの利用を認めるか。
〇 施設や備品類を壊したり傷つけた場合は利用者の責任と負担で直すことを義務化しているか。
〇 利用者を居住者に限定するか、マンション外の方の単独での利用も認めているのか。 など。
◆◆実際に起きた共用施設を巡るトラブル◆◆
筆者が居住していたり仕事で関わったマンションの共用施設で、実際にあったトラブルの例をご紹介します。
<ゲストルーム>
禁煙を明示していなかったために宿泊者と居住者で談笑しながら喫煙した結果、室内や寝具にたばこの臭いが染みついてしまった。
飲み会の帰りなど夜遅くなるだびに、特定の居住者が会社の同僚をホテル代わりに頻繁に宿泊させていた。
<キッズルーム>
完成後しばらくの間は分譲した事業者の費用負担で保育士が日中は駐在していたが、契約期間が切れた後に管理組合で費用を負担して継続するか終了させるかを巡って論争になる。
<音響ルーム>
防音仕様で外から室内を確認することができない構造だったため、高校生の男女だけでの利用時に不適切な行為があった。
<クラフトルーム>
消耗する工具の部品(パーツ)を誰の負担で補充するかルールが決まっていなかったため、使えない工具が続出。
<パーティールーム>
有料の英会話教室を開く居住者が現れマンションの外でも生徒も募集したため、利用目的やセキュリティが問題視されたが、利用を不可と判断する明確なルールはなかった。
<コンシェルジュデスク>
食品等の販売やクリーニングの取次ぎサービスなども行っていたが予想より利用者が少なかったため、管理会社から廃止するか、継続するなら管理組合で費用負担してほしいと選択を求められ紛糾。
これらは第三者的に見るとどうでもいいレベルの話かもしれませんが、当事者であるマンション居住者にとっては深刻な問題で、時として根深い対立を招いてしまう原因になることさえあります。
◆◆利用実態から生じる価値観の対立◆◆
共用施設に関わるトラブルは、経年劣化に伴っていずれ大規模な改修が必要になった時、つまり追加でお金が掛かるようになった時にも、利用方法などを巡って意見が分かれる懸念があります。
また、マンション全体の管理費や修繕積立金が不足して値上げを検討せざるを得なくなった時にも、ランニングコストの捻出方法が議論になりやすいです。
パーティールームなどの共用施設に対する意識の差は、利用頻度の濃淡が原因であることが多いように思います。
つまり、豪華な共用施設が自由に使えるから購入したというヘビーユーザーと、受益者負担にするべきと考えるほとんど使わない人では、自ずと価値観が異なると言っていいでしょう。
このような意見対立を生じる懸念を減らしておくための対策の1つは、日頃からの管理組合の活動と、居住者どうしのコミュニケーションを取りやすい環境を作っておくにあります。
マンションでの生活は人間関係が希薄と言われ、隣人と関わらずに暮らすこともできてしまいますが、共用施設が充実した大規模マンションほど、積極的にそうした施設を居住者の交流の場に活用するべきでしょう。
◆◆購入する時のチェックポイント◆◆
とは言え、実際に購入する時に共用施設の運用や管理組合の活動状況をあまり細かいことまで踏みこんで調査するのは、現実的ではないかもしれません。
仲介に入る不動産会社に確認を依頼するのも手段ですが、マンションに内見に行った時に、館内掲示板やフロントに貼られた管理組合からのお知らせ等を読んだり、実際の共用施設を覗いてみるのも有効です。
また、総戸数が多いマンションなら、意見集約が大変な一方で共用施設に関わる1戸あたりの費用の負担は薄くなるのに対して、総戸数が少ないのに共用施設が充実したマンションだと、経済的に大きな負担を求められる懸念があります。
共用施設の見た目の豪華さや充実も魅力的ではありますが、分譲マンションの住戸を購入した後には、自分も保有や運用に関わる一員になるという意識に立つと、違う景色も見えてくると思います。