売却前には不動産登記簿の状況確認を忘れずに!
2021.10.15
日頃は滅多に見ることがないと思いますが、あらゆる土地や建物は原則として不動産登記制度の対象となっており、貴方のご自宅やご実家も、登記簿には意外に感じるくらい多くの情報が掲載されています。
個人情報がだだ漏れのようにも見えてしまいますが、制度の目的から、登記簿は所有者や利害関係者に限定されず誰でも取得することが可能で、その不動産に関わる様々なことを判断する根拠になります。
ところで、この登記を長期間に渡って放置していると、最初は正確だった登記事項が、様々な事情で変わってしまい、結果的に現状とは異なっているというケースがしばしばあります。
このようなことが発覚した時はどうしたらいいのでしょうか?いざ売却する時に問題にならないでしょうか?
このコラムで詳しく解説いたします。
◆◆不動産登記簿に記載されている事項と目的◆◆
土地と建物を対象とした不動産登記簿は、土地なら1筆ごと(1つの敷地が1筆とは限らない)、建物なら1棟ごと(区分所有されるマンションなら1部屋ごと)に作成されます。
そこに記載される事柄は、大きく3つに分けられており、
1.その不動産がどんなものか?(所在地や面積や完成した時期など)
2.過去からの流れを含めて、どこの誰が持っているのか?(所有権)
3.抵当権などの担保権が付されているか?
が示されています。
なぜこのような情報を登記して誰でも調べられるようにしてあるかと言うと、売買やローンを借入れようとする場合に、取引の相手方がこれを見て、取引を実行するか否かを判断できるようにするためです。
不動産は一般的には高価なので、例えば本当の売主(所有者)が実は別人だったり、別の先に担保に出されているのに更にお金を貸してしまったりすると、思わぬ大損害を被ることが懸念されます。
従って、不動産に絡む取引をする場合は、相手方は必ず登記簿をチェックするのですが、逆に言えば、登記の内容が事実と異なっていたり、登記されていないことが原因で損害を被る場合は、法的に優先的に保護されます。
◆◆登記事項が事実とズレるケース~所有権~◆◆
例えば不動産を購入した場合、自分が所有していることを登記することで、別の人に重複して勝手に売られてしまうようなリスクがなくなります。
従って、所有権の登記を否定する方はいないと思いますが、その後転居したり、結婚等で姓が変わったことにより、住民票(印鑑証明書)の記載内容と登記事項にズレが生じてしまうことがあります。
売却する際には、売主が本人(真の所有者)であることを確認する手段として、権利証(最近では登記識別情報といいます)と印鑑証明書が必要なため、このような状況のままで売ることはできません。
もし売却の検討をはじめたら、登記事項にある貴方と現在の貴方を結び付けて同一人物であると証明できる書類を用意して、法務局に変更の申請を出す必要があります。(司法書士に依頼するのが確実ですが、ご自身で手続きすることもできます。)
また、もっと大変なのは、しばしば社会的な問題にもなる相続の場合です。
故人からの相続財産については、価値が高かったり相続人が使っているような物件では相続登記(所有権が相続人に移ったことの登記)がほぼされていますが、そうではない不動産では相続登記がされない(所有者が故人のままで放置)ことも多いようです。
このような物件をもし処分しようとすると、故人からの相続手続きが適当に行われ「遺産分割協議書」が作成されていることが前提となります。
また、複数の相続人の共有状態となっている場合は、共有者全員の相続登記と同意が必要なので、故人の逝去から長時間が経っている場合は大変な作業になってしまいます。
◆◆登記事項が事実とズレるケース~抵当権~◆◆
銀行などの金融機関(債権者)がローンを貸し付ける場合、自宅などの不動産を担保として提供するように求められることがあります。
また、住宅ローン(住宅購入資金の融資)の場合は、購入対象の不動産が必ず担保となります。
担保権にはいくつかの種類がありますが、代表的なのは質権と抵当権で、質権はローンを完済するまで担保の対象物を債権者が預かり、抵当権はそれを債務者側が管理する(使える)という違いがあります。
自宅を購入する場合のローンでは、当然ながら質権では意味がないので、必ず抵当権が設定されます。
ところで、不動産に抵当権を設定する場合、通常はその旨を登記簿に記載します。
その目的は、債務者(所有者)が多重債務になった場合でも優先的に弁済を受けられるようにするためと、債権者が知らないうちに対象物件が売却された場合、購入した人に対しても抵当権を主張できるようにしておくためです。
従って、通常はあり得ませんが、抵当権が登記されていることを見過ごして不動産を購入してしまい、その後売主がローンを返済しない事態になってしまうと、購入した人が居住している家が突然競売に掛けられ、強制的に立退きを命じられる事態になりかねません。
ところで、時々見られる現象として、ローンを完済したのに抵当権の登記だけが残っているという状況になることがあります。
抵当権を「消す」手続きは、法務局が完済を確認して自動的にやってくれる訳ではなく、債権者と債務者の間で抵当権の取下げに関する承諾書等を授受して、申請することで消すことができます。
完済した後にも抵当権の登記が残っていても、現所有者が実害を被ることはないと思いますが、もし売却しようするとする時には、購入を検討する側から見れば失効していると説明されたところでリスクを感じずにはいられません。
つきましては、効力がなくなった抵当権が登記されていることも現状の事実とは異なりますので、早々に消す手続きをお取りいただきたいと思います。
◆◆登記の変更手続きについて◆◆
上述のような所有者や抵当権等の登記事項の変更は、法務局での手続き自体はそれほど難しいものではありません。
ただ、登記してから何度も転居するなど、同一人物であることを辿るのが大変な場合や、住宅ローンを完済した後に債権者である金融機関がなくなってしまったような場合など、結構面倒になるケースもあります。
特に相続登記をしていない物件については、大変な手間がかかり、それに伴って多額の経費を要してしまうこともしばしばです。
状況や内容次第ではありますが、ご自身に変化があった時には、忘れないうちに登記事項の是正もしておけば、後々が楽なことだけは間違いありません。